
春に神差す京阪電車
大学三回生の巫女Fはとても丁寧で、優しい子だ。 Fがまだ巫女になりたての高校二年生の頃、車のお祓いの説明をしていると、 「桃子さん。車にもお鈴を振ってあげるんですか」と聞くので、 「しないよ。人じゃないから」と答えたが、心の中では「車にも振ってあげようかな」と思った。 ご朱印帖に筆文字を書いているときも、Fが 「桃子さん。」というので 「何。」と返すと 「『今日は暑いですね』、とか書いてるんですか」と聞くので 「それはない。奉拝。」と答えたが、なんだか心が和んだ。 イベントの仕事中に私がカリカリしている時も、Fは一向に気にせず 「桃子さん。」と話しかけてくる。 「何!」と答えると 「今日の桃子さん、かわいいです」 と言うので、カリカリするのをやめたことがあった。 そんなFは、正月にたくさん並んでいる干支(えと)の縁起物を前にして、参拝客の方に 「どの子になさいますか? この子になさいますか? かしこまりました、かわいいですよね」 と応対し、縁起物を慎重に、紙袋に入れて、両手で丁寧にお渡しする。 たまに、「ぜんぶ同じちゃうんか」 と、真顔で聞いてく