神様だったのかも
人けのない稲荷社裏で、落ちた椿の実をせっせと見つけてざるにいれていたら、いつのまにかお爺さんが現れて、わたしのざるに入っている椿の実を、少しもらっていいかと言う。 「これは、わたしが集めたやつだから、だめ。」 と答えてから、 「あ、ここらへんに落ちてるやつはいいです。」 と返すと、お爺さんは 「では」と言って一緒に椿の実を集めだした。 お爺さんは五島列島の出身で、集めた椿の実は故郷の島に送り、おおきな搾り機で椿油に精製して送り返してもらうのだそうだ。椿の実が落ちる季節に、あちこちまわって実を集め、大阪の椿の実のぶんだけで、一斗缶ぐらいになるという。 「天ぷら油にしてもおいしいし、何にかけてもうまいよ、椿油は。送ってきたら、すこしあげましょうか、これくらいの瓶に入れて」 椿油が食用になるうえに、うまいらしいという事にたいへん惹かれたが、先刻「私のざるのやつはあげない」と心のせまい事を言ったばかりなので、「ください」とは言わなかった。 私「私は椿の実をつぶして楽器のお手入れに使うので」 爺「へえ、楽器ですか」 私「雅楽で使うお箏(こと)です」 爺「へ